12 上野講演録
クレスチンをYの上司として統括していたのは当時東京研究所副所長だったUである。京大の助教授から呉羽の食品研究所に転職した食品関係の農学博士である。Uはクレスチンの開発の総括責任者的な立場にありながら、クレスチンの成功により周囲から妬みをかったか、策略にあったかして左遷された格好になり、しばらくして退社し京都で自分の研究所を設立し、食品関係のコンサルタント業になった。UのPSKに関する研究報告書殆ど殆どに取扱注意、マル秘がおされており、限定した情報しか提供されなかったことから、会社全体が取り組むことになったときには所長になったHが表舞台に立つようになった。
Uは1979年12月に退職し京都に戻り食品関係の仕事に就いたが、第37回環研セミナーでクレスチン開発の研究について講演し、その記録が環境科学研究所年報第8巻p-261~282(1980)として残っている。
「担子菌、糖蛋白の制癌剤としての研究」がタイトルである。詳細は文献を参照して欲しいが、その中から少し引用すると(靑字)
1. 緒論
ただいまお話がありましたょうに、昨年12月末まで、呉羽化学工業株式会社中央研究所副所長及び食品研究所所長として、約20年在勤しました。本日お話申し上げることは、その間に開発した、この表題の研究内容です。申すまでもなく、これは機密に渡る面がたくさんございますので、本日発表いたします内容はすべて公表された論文等の内容だけでございます。(中略)
私は企業におります時にシイタケとかナメコという食用菌の母菌をつくる仕事をやっておりました。そのシイタケとかナメコを木に植えつける場合に最も害になる有害菌が、たまたまこれからお話し申し上げるカワラタケでございます。
カワラタケが生えるとどうにもならない。これが一番強くて、自分が植えようと思うシイタケとかナメコが負けてしまう。しかも、それが昔からの伝承によると、癌に効くと言われていたのですが、だれも科学的なレベルで研究し直して、医薬品化しようとはしなかったわけです。
それを私どもは医学、薬学のしろうとであったがゆえに、先ずやってみようと考えて、実験動物の移植腫瘍にやってみたところ、果たして腫瘍が消えた。これは何とかいけそうだと言うことで、内部でこっそり研究を始めました。
ところが、私は満田所長の教えを受けたものですが、本来水産の出身で、「サカナヤ」でございます。魚あるいは魚介類を加工する専門家が、癌の薬という、薬をつくる上で最も難しい仕事ができるはずがないと、だれも相手にしなかった。また、医学の方々も99.9%成功の可能性はないとおっしゃいました。0.1%の可能性を求めてやった事になりますが、私はそう思わなかった。
あとでスライドにも出ますが、長年、世界のいろんな地域で癌に効くという言い伝えが独立にある。特定の一箇所から伝わったものではなくて、独立してあることは何かある。もしそれがうそであったら、途中でそういううわさが消えていくはずです。さような伝承を大事にして、実験動物のレベルでやってみよう。もし、それでよい結果が出なければやめようと思ったわけです。ところが、やはり伝承のとおりにそのことが出ました。
その次の段階では、ネズミの癌に効いてもヒトの癌には効かないだろうという批判です。これは当然でございます。しかし、あらゆる制癌剤が初めから人間の癌で研究できるわけではございません。人間は実験動物ではありませんから。必ず動物の癌、移植腫瘍、及び自然発生の癌について実験され、それから安全性の確認をやり、次に予備臨床と称する、おおざっぱな粗い試験を末期癌の患者にやりまして、いい点が出たら、数千例の本臨床の実験に移って行くわけです。本臨床に入ると、先ず20億や30億円の金は軽く吹っ飛んでしまいます。そういう段階を通っていくので、先ず何としても手堅く動物実験をすることが必要であります。(中略)
ここに取り出したカワラタケは、京都大学の裏側の東山吉田神社の裏山の朽ち果てた木に生えていたもので、去年の秋にあることを見ており、雪の降った今年1月20日に行ってみましたら、やっぱりありました。これがそれでございます。これがカワラタケから抽出した問題のPSK。これは私たちのかいはつ段階ではポリ・サッカライド・クレハと言ったところからPSKという名前を頂き、それが現在の発売段階では商品名の「クレスチン」となりました。PSK(クレスチン)と、このもともとのキノコと、それから朽ち落ちたキノコ、それから皆さんが幾らも見ていながら、案外いままで見過ごしていた枯木を、もういっぺん見てもらうために回します。(中略)
2. 研究の発端
世界各国でカワラタケが抗腫瘍性である、といういわゆる癌に効くと言われております。「ガン病棟」というソルジェニツインの本がございますが、何人かの方はお読みになったと思います。ソ連に行くとシベリアの原野に白樺がいっぱい生えています。それが倒伏して朽木になりますが、それにはほとんどといっていいほど、カワラタケが生えます。
かってソビエトが非常に貧しかった頃労働者はシベリアに行った場合に、お茶が飲めなかった。そこでカワラタケを採ってきて、干してお茶代わりに飲んでいたと言われます。そのときには癌が少なかった。ところがだんだん収入が増えて、いろんな国からコーヒーを買ったり、お茶を買って飲むようになったら癌が増えてきた。これはどこまで本当かわかりませんが、そういう言い伝えがあるわけです。そのことからして、現在でもモスコーの人たちは、休みになると郊外に出かけて、カワラタケを争って採ってきて、煎じて飲むとうことがソルジェニツインの「ガン病棟」に出ています。彼は日本からの伝承から習ったわけではないと思います。
わが国において調べてみますと、北海道、東北では仙台はガンとカワラタケのことが良く知られており仙台の東北大学ではサルノコシカケ属の糖蛋白について抗腫瘍性があるのではないかということで、多くの注目すべき研究をしております。関東地区、北陸では金沢大学にそういう記録も残っております。
また、ある末期の食道癌の患者が、こういうキノコを飲んでいるうちに、いっぺんに腫瘍が消えた臨床記録もあります。それを確認いたしました。近畿地区では、滋賀県甲賀地区の甲賀病院で、胃癌の末期症のおばあちゃんがかなり大きな腫瘍があって、もう手遅れで、治療のいたし方もないという段階になっているのを、甲賀地方で伝わっているカワラタケを煎じて飲んでいるうちに、消えてしまった。いつまでたっても死なないということから、おかしいといって調べてみたら腫瘍はなかった。そこでその次がまた問題なのですが、治ったと思って飲むのをおやめになったら、1年ぐらいで亡くなられた。その時には癌であったかどうか、確認されて降りません。そこまで判っております。
そこで、一体どんなキノコを飲んだのか調べてみたわけです。私の研究所の研究員の1人がこの地区の出身で、そのキノコを採ってきて、どれだったか調べましたら、主体はこのカワラタケでした。
もう1つ、シュタケといって、同じような形で色の赤いのがあります。それは非常に少なくて、たくさんは採れませんし、また抗腫瘍性はカワラタケが一番安定して強いし、培養もしやすいことから、カワラタケを選んできました。なお、たまたまナメコとシイタケの菌をやっていたものですから、いろんな山を歩いてキノコを採ってきて、組織培養をして、各種のキノコを調べました。そうしたところ、おおざっぱに申しますと200種類くらいのキノコの中で、その半数以上が抗腫瘍性を持っていることがわかりました。しかし、その程度は種類によってかなり違います。たとえばナメコとかシイタケにもその成分がありますが、非常に少ないことがわかりました。そんなことからナメコ、シイタケを原料として使うことはやめたわけです。
それから、台湾の方たちと話す機会がございまして、聞いてみたら、台湾の東側に新高山のある山脈がありますが、あそこにいろんなキノコがあって、やはり食えない、堅いカワラタケが効くのだという伝承があるということでした。
3. 研究開発継続の困難性
さて研究をやる場合の問題点ですが、いままでの抗癌剤はすでにタイプが決まっており第1に癌細胞に直接作用して、癌細胞を小さくするもの。いわゆる癌細胞が異常増殖していきます場合は、それが有糸分裂をして、癌細胞のDNAがどしどし複製されます。諸君は最近の分子生物学でいろんなことを知っていると思いますが抗癌剤は細胞分裂を阻害するものですから、細胞毒性を持ったいろんなグループに分類されております。そういうものが従来の抗癌剤でありましてクレスチンはさような抗癌剤のグループに入らない、全く違うグループの薬品でありますので、新たな薬効評価基準を作る必要性に迫られました。これは薬事審議会で審議してもらい薬としての許可をとるわけですから、従来の尺度に当てはまらないという問題があるわけで最も大きな問題でした。
クレスチンは抗癌剤の従来の分類、構造及び作用機序に入らないので、先ず有効成分を分離して構造決定し、その吸収、排泄、代謝の研究と、薬効、副作用の動物実験、並びに臨床試験にも新しい尺度つくりが必要になりました。
4. クレスチン開発の背景
これを始めましたのは昭和38年ころで、私が呉羽化学にまいりましたのは昭和35年です。2年後の昭和37年から動物実験を始めました。その動物実験を始めた時点に起きまして、今から17,8年前なので、腫瘍免疫すなわち癌には癌免疫があるのだということはあまり理解がなかったのです。それから免疫療法と最近でこそ申しますが、いまから17,8年前には免疫療法なんてできるはずがないといわれておりました。昔から言われているけれども、一体何を使うのだというような理解の問題がございました。そういうことからして、たぶん99.9%、ものにならんだろうということになったのだろうと思います。
アメリカで、腫瘍免疫を人において証明するためにこんな実験をしました。有名な実験です。死刑囚を2つのグループに分ける。1つは癌にかかっている死刑囚、もう1つは癌にかかっていない健康な死刑囚に分けて、健康な死刑囚に癌患者の細胞を移植するわけです。日本でこんなことをやったら大問題になります。アメリカではそれができたわけです。そうしますと、健康な群では10人のうち10人が癌細胞がつかないのです。とにかく健康な人には癌細胞が絶対つかないことがわかりました。ところが癌になっている死刑囚には10人のうち8人も他人の癌がついた。これは大変意味のある研究です。がん免疫上決定的な研究といわれております。
もう1つは企業体質の問題。
私が前におりました会社は製薬会社ではなしに化学会社でございました。石油化学会社で例えばカセイソーダや塩酸、硫酸などをつくるあるいは農薬とかベンゾール系の有機薬品を作る工場で、癌の薬とは縁もゆかりもない。したがってそんなものをあてにしないということもございました。
抗癌剤における世界的な動向でございますがその時点においては化学療法が優先でございました。アメリカは癌の研究では最も進んでいまして、日本の研究費に比べて、100倍近い癌の研究費を使っております。大統領が直接これに大きな指導力を持ちまして、研究費を出しているわけです。民間の研究費も一般の研究でも7、8割も国の補助があるというほど大きいわけですけれども、そこでは化学療法が全盛でございました。(中略)
この開発の背景としましては、食品研究所を創設させてもらいましたのは1960年で、その3年後にはこの研究にも着手しました。研究者は私は水産学で、それからいろんな大学の農芸化学、畜産学出身者、食品研究所ですから食品を作る、あるいは保存包装する研究が主体でございまして、このグループには医学、薬学の研究者は1人もいなかったのです。それが食品添加物、食品包装材料の安全性の確認のために当初実験動物を始めたのでございます。(中略)
それで一般毒性試験ですが、一般毒性は急性、亜急性、慢性毒性からなり、特殊毒性は発癌実験、催奇形性、繁殖試験、局所刺激、アレルギー試験、依存性、習慣性などをいいます。発癌試験と抗癌剤開発試験とは表裏の関係にありますので、3つくらいの研究テーマを同時並行的に進めたわけです。この発癌性試験の中で、天然物についてはだれもやっていない。しかもいろんな言い伝えがあるということから、これは面白いと思って、研究を進めました。
それから研究経費の確保ですが、いい薬をつくるには最低10年、大体15年くらいの年数が要ります。しかもその成功率たるや、そう高くはないということで、主たる研究、つまり実益につながっている研究費の一部を回していただきまして、利益を充分に上げながら研究を続けていく、これしかないわけです。そういうことで、食品包装材料関係の研究費の一部を制癌剤の開発に振り分けたわけです。(中略)
それから、微生物の知識で、先ほど回しましたようなものを純粋分離して、分離培養し、大量培養する段階での外部からの汚染を防止するということに役立ちます。
自然界のキノコは数千種ありますが、どの種類でも山の中で分離して持って帰りますが、それができるということが重要です。
それから、最近問題になっているグッド・ラボラトリー・プラクティス(実験の成果を正しい記録に残しておくこと)も重要です。こういうキノコは突然変異を起こし易いものです。たとえば色が変わってくるとか、シイタケですとキノコが出来なくなることがあります。菌糸はいっぱいあるのですが、子実体が出来なくなることがある、そういう変異防止にも技術的に出来るのです。
実際に作ります場合に、培養抽出精製し、それを大型にしていくためのスケールアップ、コストの算定、生産工程のグッド・マニュファクチャリング・プラクティス(GMP)など、現在いろんなことがきつく言われておりますが製造工程を完璧なものとして、いつでも安全性上の問題がないようにしなければなりません。
実験動物の知識は、だれも専門家はいないのですから、基礎から勉強しました。医学部、獣医学部に通い、いろんな勉強をしました。今にして思えばなまはんかの知識がなかった方が、かえってよかったと思っております。
幸いなことに食用キノコ、シイタケ、ナメコ、ヒラタケ(人工シメジ)など、これらの母菌を工業的に生産して販売することをやっておりましたので、この設備を使ったわけです。そこで臨床実験の数千例の治験薬は充分に出来たわけです。これがなかったら、なかなか臨床実験に困ったと思います。
次に生物学、微生物学、実験動物学の関係でいろんな大学の医学部、癌関係の研究機関、がんセンターあるいは府県の癌研究所、各大学の癌の関係者などに人脈がありました。そういう方のご指導と協力を得ました。研究統括、方向付け、これは非常に大事なのですが、これも先ず伝承を科学的なレベルで、動物実験で再現するということで、いろんな方向に走らなくて一本でいったことが良かったと思います。
5. 研究のプロセス
その開発のプロセスは、先ず第一に伝承的に良いと言われるものを、子実体を採ってきて、その分類をやる。それを今度は動物実験で確認するのが第一段階。
次に200種類くらいのキノコについて抗腫瘍性のスクリーニング、どのキノコがどういう腫瘍に効くか、これがネズミの移植腫瘍が100種類近くございますから、その中のどういうタイプ、例えば腹水型の癌に効くのか、薬物耐性のある種の癌に効くのか、あるいは結節型の腫瘍など、いろんな腫瘍について試験をして、どのグループに効くか検査します。それから、最も有効なキノコがこれで見つかった場合には同種の異株につきチェックし、同じカワラタケでもいろんな山から採ってきて調べます。一番良く効く株を選ぶことが生産上大事なことです。それを登録いたします。そして突然変異を起こさないように維持します。次に子実体と培養菌糸体の有効性の比較をします。子実体のキノコを使うと大変時間がかかりますので、生産性の問題で培養菌糸体に直さなければならない。そこで、これと同じような効果が出るように培養条件を求めていくわけです。これも大事な技術です。(中略)
治療検査のための治験薬申請、次いで予備臨床といいまして、2,30例やる予備的な実験2、30例の中で少なくとも数例、注目すべき結果が出なければ、ここでストップするわけです。これが予備臨床で約25例のうち5例、非常に面白い結果が出まして、本臨床に入ったわけです。
臨床試験のためのプロトコールの作成が大変重要です。プロトコールというのは判定基準です。相撲で言うならば、相撲の審判員がいますが、どういう方法で結果を記録して整理するかこれがなかなか一様ではないわけです。各大学によって伝統的にやり方が違うので、それを北海道から九州まで同じ方法でやる、これが大変難しい問題です。そして全国的な研究組織を構成して分担研究を致します。その中間的な結果をフィードバックして、さらにプロトコールに反映して正式のプロトコールを作製していくこともあります。
最後に臨床試験のまとめとなります。臨床試験はたいていののものは2年か3年かかるはずです。まとめだけでも1年くらいかかります。そして申請認可となります。研究の報告書が厚生省から、薬事審議会で審査されて、返ってくるわけです。癌の場合は癌特別部会、癌常任委員会がありここで詳細に審査されます。そして次に健康保険薬の申請、認可、販売となります。
さて、菌の分離ですが、枯木にカワラタケが生える。これから子実体を山の現場で、寒天斜面培地を持っていきまして、イースト・グルコース・アガー培地上に切り取ったキノコ子実体の一片を乗せます。そうすると菌糸が伸びてきます。それを今度は研究室に持って帰り数回分離培養の後、拡大培養いたします。拡大培養は先ず静置培養でやります。ビンを横にして、液体培地を入れて菌を接種して約4週間すると草履みたいな菌のかたまりができます。これを摩砕して、熱水抽出して精製します。そして今回の場合には先ずサルコーマ180(S-180)腫瘍株を用い、これをハツカネズミ(体重は成長したもので20gくらい)の腋下に接種します。このもともとの腫瘍は腹水型で、水の中に腫瘍細胞が独立に存在するものです。これを約106個、顕微鏡で見て、計算して植えつけます。そうしていると3週間くらいで身体の大きさ半分くらいの腫瘍ができて死んでしまいます。その3週間くらいの腫瘍成長というのがミソでして、ある程度の時間がないとこのものは効かないです。通常の抗癌剤は数日で効くのですがこういう免疫関連のクスリは時間が充分でないと効果がない。したがって従来の抗癌剤のスクリーニングにこういうものを乗せたら効かないという結果が出るわけです。そういうところが問題だとわかりました。これを接種して10匹を一群として、この腫瘍を3週間前後に取り出して、腫瘍の目方を量るわけです。片方は薬をやらなかったもの、片方はこの薬をやったもの。薬をやるとこれがほとんど消えますから、その10匹の腫瘍の目方を足して、その目方と、何もやらなかった場合は大きな腫瘍ができますから、その目方の比で有効性を見るわけです。それを抑制率といいます。(中略)
先ほどのは静置培養ですが、これは通常の拡大培養の通気攪拌培養です。このもともとの菌糸を小さなジャーファーメンターに移し、それから10倍あるいは50倍の比で段階的に拡大していきます。そしてある一定期間たったところで、菌糸体だけを集めます。栄養菌糸体です。そして集めた菌糸体を濾過して粉砕して、抽出して、粉末乾燥にかけます。一度ここで検査をします。これはGLP、GMPという規定の方法で検査しまして、製剤化します。先ほど回したものは粉末ですから、飲みにくいので造粒します。粒状にして検査をし、分包、出荷します。工業的製法を図3に示します(タンク培養の方法が図示されている)
こういうふうにして造ったキノコのそれに初期PS-K(ポリ・サッカライド・クレハ)という名前をいただきました。
5.2 臨床試験
(中略)これは国立がんセンターの伊藤一二先生、それから三富先生らの74年の報告であります。そこでは胃癌、直腸・結腸癌、食道癌、乳癌の再発及び末期癌に手術と併用しました。例えば胃癌ですと合わせて54例、直腸・結腸癌が24例合計112例に3ないし6g/日、現在の臨床用量はクレスチン3gが標準でございます。これをやって効果をみたわけです。これは本臨床の初期の段階のものです。それを総括しますとほとんどの例で強い食欲増進効果が出る、中には体重増加の例も見られることがあります。
その記録を2,3紹介しますと、ステージ3、4と数字が進んでいくほど癌が悪化していくわけですが、もう末期癌に近いわけです。ステージ3,4の胃癌の切除手術の例で、22例中16例に顕著な食欲の増進があった。それから術後6週間で5kgの体重増加があったのが3例ある。これは珍しい例です。同じようなことが東大でやった予備臨床で出てきたのでこれはいけると踏んで、本格的な臨床に入ったわけです。
結論として、直接的な腫瘍の縮小効果は出てきません。腫瘍は徐々に大きくなりながら、本人の自覚的な症状が、癌の末期ではほとんど食欲がなくなる、倦怠感がある、うんとやせるということになるのですが、PSKを服用すれば食欲が出るから当然体重はふえます。倦怠感がなくなる、痛みが退縮するするなど、いろいろ出てまいりました。そういう状態を伊藤先生らは、この薬を使うと、腫瘍と人間が共存し、共栄し癌が共栄したら困るのですけれども、そういう関係にあるのではないかと見ておられます。通常の抗癌剤では全く考えられないことが起こっているわけです。
臨床例のこの1例は、63歳の女性で・・・・
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