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  9 がんセンター贈収賄事件

申請の準備中、昭和50年に国立がんセンター職員の贈収賄事件が勃発した。その内容を昭和51年度警察白書より引用する。

事例1〕 国立ガンセンター職員らの贈収賄事件
 国立ガンセンター薬剤科長らが、同病院への薬剤納入に関し業者に便宜を与え、自分たちが都内の高級ホテル等で飲食した代金の請求書を、薬品納入業者ら3人に示して支払を要求し、115万円相当の賄賂を受け取っていた(警視庁)。

 さらに詳しい内容は参議院会議録に詳しいのでそれを引用する。 

『第076回国会 公害対策及び環境保全特別委員会 第2号
昭和五十年十一月十九日(水曜日)

「前略」

○神沢浄君 厚生省。

○説明員(浅野一雄君) 国立がんセンターを直轄している主管課長といたしまして、こういう問題を引き起こしたことに対しまして深くおわび申し上げます。

 いま先生御指摘のこの事件の概要と性格でございますけれども、大きく二つに分かれるかと存じます。 一つは医薬品の購入に関します贈収賄事件でございます。で、簡単に申し上げますと、国立がんセンターの薬剤科長と副薬剤科長、それから製剤主任の三人の薬剤師がその地位を利用して、薬剤購入に便宜を与えたということで逮捕された事件でございます。それから、もちろんこの問題に関しましては、われわれいろいろ現在検討しております。まあ購入手続き等には問題はなかったかと思いますが、一つのポストに長くこの薬剤師がいたというところに問題があろうかということで、十分反省している次第でございます。

 もう一つは治験薬の取り扱いについてでございます。この二番目の治験薬の問題につきましては、司直の手で調べられましたが、贈収賄事件としては特に立件されませんでしたが、社会を騒がしたという点において、先生の御指摘のとおりだと思います。この治験薬の問題につきましては、いわゆる新薬開発の途中におきまして臨床試験を行わなければなりませんが、それは国立病院のみならず、各病院で行われているわけでございますが、特にがんセンターにおきましては、私の口から申し上げるのはどうかと思いますが、日本におけるがんの研究ではトップクラスの病院でございますので、そういうふうな関係で、いろいろの制がん剤の治験の委託を受けたというふうなことに端を発しまして、まあ非常にその件数も多いと、また委託費の金額も多いというふうなことから、われわれといたしましては、会計法上は問題がなかったと思っておりますけれども、個人の恣意が働いたと申しますか、個人的な管理下に置かれていたというふうなことで非常に問題があったと思っております。

まあ、この二つの問題につきましては、一つは贈収賄事件、一つは贈収賄事件ではございませんが、国立がんセンターとしては、非常に複雑に絡んだ問題として、われわれ十分反省している次第でございます。

   更に委託研究についても

次に厚生省ですが、端的に申し上げますが、これはまた表面に出た事件なんというのはそれは何といいますか、ちょっと品性低劣な一部の者が、誤った立身出世主義みたいなことでもってしでかしたことのように思います。しかし、これも私、調べてみましたらそんなことではなくて、もっとそれこそ重大な問題がひそんでおるというようなことをこれは気がつかざるを得なかったんですがね。これは毎日新聞の報道ですが、がんセンの副院長という人がこういうことを言っているわけですね。ちょっと読んでみます。
  調べに対して木村副院長は、治験の費用名目で金を受け取り、一部を研究費に、残りを出張の費用、忘年会、新年会の費用、またその二次会の遊興費に使っていたことを認めたが、自分個人の家計や飲み食いには使っていないと供述。また1自分の知る限りでは現在の預金残高である千六百万円の数十倍の金が業者から治験費用の名目で病院に渡っており、その額は多分三億円を超えている2医局を運営する裏金が要るので、治験費用の名目で製薬会社の協力を受けた3こうしたことは全国の国、公立病院どこでも慣習になっており、年間三十億円が製薬会社から国、公立病院に流れているはず――と供述、
こう書いてあります。さらにその副院長の談話として、
  木村副院長は六月夜、毎日新聞記者との会見に応じ、治験費の使い方やメーカーからの援助がなければ医局のスムーズな運営ができない点などを次のように語った。
  治験費は実験器具の購入や病理実験の助手、アルバイトへの謝礼に使ったり、医師の出張費、外国から有名な研究者が来た時の接待費などに使った。われわれは治験費を研究補助費と考えている。もちろん、治験活動は日常の医師活動をしながらできるのだから、特別の費用がかかるわけではない。
  だから国の研究費で治験費をまかなうこともできるわけだが、今度は医局の運営費が足りなくなる。たとえば、研究会を毎週のように開いて必要な医師を講師に頼むが、その講師の宿泊代や飲食代が足りないという状態だ。捜査二課は、この治験費の受渡しが汚職の温床だといっている。確かに金銭面でルーズになりがちで疑惑を呼んだことは反省しているが、我々の方からワイロを取るつもりで要求したことはない。善意のメーカーが我々の研究を援助してくれる程度に考えている。

 こういうが出ているんです談話ね。これは私率直のところ警察にも尋ねてみました。まあ金額なんかの点については必ずしもこのとおりに警察でも押えているではないようです。しかし、大体いま副院長が言っておるようなことが実態であることは警察でも認めているようであります。こうなりますと、まず第一に指摘をしなければならぬのは公私の混同ですね。出張費なんというのは、これは公のものだろうと思いますよ。それから、何か聞くところによると、病院の運営でもって何か臨時雇いなんかして、その臨時雇いの賃金なんかまで業者から出ている金でもって払っている。一方においては、忘年会の費用や遊興飲食にも使われている。けじめが全然ないわけなんですね。しかも、この談話でもってまず感じられることは、そういう善悪の認識とか、大体罪の意識というようなものが全然これはないんですね。こういうことがここで書いてあるように全国の国公立病院においてはどこでももう慣習化されて行われておると言うに至っては、これは容易ならないことだと思います。何か私などの聞いたところでは、これだけの問題でなしに、たとえばいま言い値でもって薬を買っておるのは国公立病院であって、他の私立あるいは開業医などにおいては、かなり薬の購入なんかについても適正な価格を業者に認めさせて買っておる。国公立病院では言い値でもって薬を買うものですから、端的な言い方をすると、その分がこういう治験費というような名目でもって病院へ返ってくる。返ってきた金がこういうふうな使い方をされておる。表へ出た事件なんというものは、こんなものはきわめて微々たるものですけれども、まずこういうような実態というものを、これはこの際ひとつ厚生省としては本当に真剣に改善是正に取り組んでもらわなければ――あるいはとてもそういうことはいまの厚生省なんかでは、昔から象牙の塔なんという言葉があるとおり、学者だとかこういった特殊の部門に対しては口がきけないというようなことがあってそのままになってきておるのかどうかわかりませんけれども、それはこの際、本当にメスを入れてもらわなければどうにもならぬですよ。繰り返すようですけれども、これは国民の側からすれば、要りもしない薬も買わされたり治療もさせられたりということにもなりかねないわけでありまして、しかも公私の名分がはっきりしないなどという状態がさらに今後も続いていくなんということになりましたら、これは容易ならぬことだろうと、こう思うんでありまして、いろいろ調べたこともありますが、時間がないものですから一番重大だと思われる点を一つ取り上げて、これは今後厚生省としてはどうしていかれるのかという点をお聞きしておきたいと、こう思います。


○説明員(浅野一雄君) 言いわけがましくなるかもしれませんが、国立がんセンターの性格というのをもう先生御存じのとおりだと思うんでございますけれども、先ほど申し上げましたように日本で一、二を争うがんの臨床研究をやっているところでございます。したがいまして、医師にいたしましても、薬剤師にいたしましても、かなりのレベルの人が集まってきております。また、それらの技術屋の総合力を発揮することによりまして、日本のがんの医療並びに研究の推進ということが行われているというふうな従来自負があったわけでございます。で、その自負が今度逆にその自件を引き起こしたとわれわれは考えておる次第でございます。で、いま先生おっしゃいました木村副院長でございますけれども、木村さんは、白血病という血液の病気がございますが、これは血液のがんと言われております、これの日本的な学者でございます。世界的にも有名な人でございます。そういうふうなことで、治験一つにしましても木村さんのところにいろいろ集まってくるというふうな事態がある、また学者の卵もたくさん集まってくるというふうなことから、非常に世帯が大きくなっていたわけでございます。これはがんセンターのみならず日本的に、大学もまたほかの病院の研究者、臨床家もみんな木村先生の教えを請うというふうなことがございました。その関係で、百人近い弟子が学位を取ったり、またそういうふうな関係で、講演会に木村さんが呼ばれたり、原稿を帯いたりというふうなこともございまして、そのあたりのいわば私的な金も、また公的な研究費もごっちゃにしていたという点に問題があったわけでございます。警察の調べを終わって帰ってきました段階で、われわれ厚生省の医務局の幹部が木村さんからいろいろお話を聞きましたが、どの程度警察で話をしたのか、われわれには何か隠しているのかその点わかりませんが、われわれが聞き出した範囲におきましては、決して飲み食いに使ったりというふうなことはないようでございます。ということで、いろいろ通帳その他メモ等調べてみましたが、製薬メーカーからいただいた金につきましては、実験器具、またそれに必要な人件費というものは私は当然の支出だと思いますが、いわゆる実費的なもので消費しておりまして、余りむだ遣いと申しますか、それ以外のものには使っていないように思われました。ただ、いま申し上げましたように私的な金もかなり入っておりますので、それが一つの通帳で個人的に管理されていたというところに疑惑が生じたんだろうと思いますので、即刻その点につきましては、私的なものと公的なものを分けるように指示いたしまして、現在作業中でございます。そういうふうなことでございまして、先生御指摘のとおり公私混淆と言われるのはそのあたりに問題があっただろう、特に金の管理の点でそういうふうな知識に乏しい一人の医師が管理したというふうなところに問題がございますので、今後の問題といたしましては、これを公的な場でやっていく。がんセンターといえどもと申しますか、がんセンターといたしましては、従来、治験薬の取り扱いにつきましては薬剤委員会の中に治験薬取扱小委員会というものを置きまして、技術的には十分な検討をしておりましたが、残念ながら会計上の問題で不備があったという点をわれわれは反省しておりますので、それを今後、会計的にも全部その治験薬取扱小委員会で公的に、ガラス張りにしていくというふうなことで、現在、今週じゅうにでもその制度を固めたいというふうに考えている次第でございます。

 最後に先生御指摘の、ほかの国立病院並びに公立病院――公立病院のことは私はわかりませんが、ほかの国立病院を調べてみましても、がんセンターのようなことはございませんで、もちろん取り扱い件数も少うございますけれども、薬剤委員会を設けまして、そこで薬の内容等につきましても十分チェックし、また金の管理につきましても、事務官も入りまして、十分に管理されているという実態をつかんでおります。しかし、そういうふうな誤解を生じた現段階におきましては、全国立病院を通じて、今後こういうことが起こらないように、十分な指導体制を敷きたいというふうに考えている次第でございます。

「後略」

以上ががんセンター贈賄事件の概要である。呉羽でも全国の国公立の病院で治験中であり、委託研究費も出し、盆暮れには付け届けをしていたので、そういう会社に特捜が踏み込むのではないかという噂があり、Yと二人で贈収賄に関わるような文書の対策を考え、結局疑われそうな書類で不必要なものや関係先のドクターの住所、電話番号など個人を特定できる情報も焼却処分することとした。またこの仕事は秘密裏に行うことがベターと判断し、仕事が終わった後の深夜に焼却することを考えた。

 当時のCTには馬鹿でかい焼却塔があり、行動を特定できる日誌などの私物を含め、関係書類を数日にわたりYと二人で焼却した。この仕事が彼の中で私を外様から譜代に昇格させ?、その後のYとの深い関係につながっていくことになった原点かも知れない。

汗と焼却熱による眼の痛みと徹夜での焼却の苦労は今でも思い出すことが出来るが、残念ながら?贈収賄事件はがんセンターのみで終息したので徒労に終わった。 

噂ではがんセンターへの食い込みを図っていたT社がなかなかうまくいかず、薬局に問題ありと告発したらしいというが真偽は分からない。また、薬剤科長らが海外出張の餞別を要求したことが事件の発端とも言われたようだった。その後各メーカーの不祥事は多々発生したがこれらは後で述べるかも知れない。

それ故PSKが認可されるまでの個人的な記録(仕事関係の)は殆どなくなってしまったので記憶をたどって記している。


 


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