6 PSKの製造方法
昭和48年8月に壬生に転勤したときは静置培養が主体でタンク培養はまだ研究段階だった。静置培養で得られた菌体は乾燥後熱水抽出後硫安塩析し透析膜で低分子を除去した後濃縮して得られた液をCTに送りプラスチック製のボトルに詰めて凍結していた。この培養法だと培養時間が21日と長い上に収量も限られることから、将来はタンク培養が主体となることは当然の考えであり、また、承認取得後薬価収載になれば「市場への供給義務」が付されていたため、費用対効果を大にすることは企業として当然であった。ただ、タンク培養で得られた培養液は粘着性が高く菌体を分離する良い方法が見つかっていなかったため、研究自体が滞っていた。
申請を前提として研究が進められるようになり、会社は他のグループも研究に応援するような体制をとった。製造方法に関して静置培養、タンク培養、抽出方法、塩析方法、乾燥方法等などCT内部の他のグループや、錦研究所のグループなどが一挙に参列してきた。中には「化学工学とは」など基礎をまくし立てるグループや「今まで何をやっていたのか」と怒るグループ等々てんやわんやの実験が始った。
その製造方法研究の一部を懐かしさを覚えて記す。
6-1:培養方法
*静置培養では棚段方式、チューブ方式、すべり台方式、ロータリーキルン方式、回転多板方式、ビン培養方式などであり、他にタンク培養方式等々が検討された。棚段方式では錦研究所のS副所長らが化学工学の初歩の理論から講義するなどから始まり、結局錦工場の中間実験室でバカでかい棚段を試作し培養実験を行ったが、培養室をリフトカーが走り回り、土足での仕事など医薬品の取り扱いとはかけ離れた研究であり、培養期間や収量面から採用されず、チューブ方式は長いフイルムチューブで静置培養する方法だったがこれも採用されなかった。工業生産には静置培養は却下された。
*タンク培養はCTのA(当時会長の長男)一派がタンク培養理論を振り回していた。ただ、培養自体は同期のOらが2tタンクで実証済みだったが、培養液の粘度があまりにも高く、通常の固液分離機が使用できなかったことがネックだった。
後日PSKの販売担当になったN常務は工業化について「大型のタンク培養が確立していないならば、確立している2tのタンクを必要分並べればよいではないか」といったそうで、それが彼がPSKの開発者の一人であると認めて欲しい根拠だということだった。これはPSKが医薬品業界で有名になったとき、開発に携わっていなかったCTのEが母校の雑誌に「PSKの研究開発について」という記事を寄稿したりして、開発者の仲間入りを願ったと同じく、Nも「PSK開発者の仲間入り」を願ったらしいが、Yから「それは無いでしょう」と言われて諦めたらしい。ただ、これも後日のNY戦争が勃発した遠因かも知れない。
タンク培養の概要は当時PSK研究の責任者だったUが、第37回環研セミナーでクレスチン開発の研究について講演し、その記録が環境科学研究所年報第8巻p-261~282(1980)として残っている。「担子菌、糖蛋白の制癌剤としての研究」がタイトルである。その中から少し引用すると「母菌の分離」
「タンク培養」
錦工場のタンク培養の様子は後年テレビ取材が有り内部が放送されたという。
後処理の担当者だったF(後の専務)は「ビオフェルミン」の酵母乾燥がドラムドライアーによる方法であることを知り、ドラムドライアー法を検討した。が培養液の粘度が高くなかなかうまくいかなかったが、滴下法やかきとり法をに工夫を重ねドラムドライアー法を完成させた。乾燥菌糸体は抽出が良好になると同時に運搬上の問題点も解消した。これで乾燥菌糸体入手の問題は一気に解決した。これが解決したことで静置培養の実験は全てお蔵入りになったが、申請には静置培養法と深部培養法を併記し、CM101株の菌糸体とだけ記載した。
その後タンク培養研究が進んだが、量産するために大きなタンクが必要でありそのタンクが購入できないため、Yの大学同期?の林業試験所O先生経由で宝酒造株式会社を紹介して頂き、65tタンクでの培養試験を行ない、スケールアップに問題ないことが証明された。錦工場でのタンク培養が順調に稼働し始めるまで宝酒造での委託生産が行われた。この時宝酒造で65tタンクが使われたので錦工場でも65tタンクが基本となり、販売量が増える度に65tタンクを増設していった。
我々は宝酒造への委託生産を続けた方がPSKが売れなくなったときに委託を中止すれば良いので、設備投資の危険も回避できると進言したが、石油関係で大量に採用した人手が余っており解雇も出来ないので(石油関係の開発は予想に反してそれほど進展しなかったため人手があまり)PSK工場を作り労働力をそこに向けたいとのことで建設が決まったと記憶している。宝バイオの記事(1977年クレスチン原料の委託製造開始とある)
6-2:抽出方法
*抽出方法は熱水抽出、アルカリ抽出、加圧抽出などが検討され、喧喧囂囂の検討の末、効率の良い抽出方法として「アルカリ抽出」が選択された。ただ、収量は飛躍的に上がったが、効果についての検証は動物試験のみであり、臨床で効果があるかどうかはわからなかったが、前にも述べたが規格が満たされれば同一と見なされていたので、多分臨床効果もあると考えたのである。
申請書には製造方法の記載が必須であり、「菌糸体を熱水で抽出後・・・」を「アルカリ性熱水で抽出後・・・」と明記する方が良いのではということになり、申請寸前に「アルカリ性」を付け加えたと記憶している。
6-3:後処理
乾燥菌糸体をアルカリ抽出した後の精製工程もイオン交換樹脂法、塩析法、沈殿法、膜分離法等などが検討され、理化学、規格、収量などから、低分子画分を除去するため硫安で高分子画分を沈殿させ、沈殿を再溶解後、硫安を除去するため透析脱塩し、スプレードライして乾燥粉末とする工程を確立した。
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