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 32 ゾロ品

クレスチン製造は基本特許(昭和43年10月3日 制癌剤の製造方法 特許登録番号968425 昭和51年公告)により昭和63年10月3日までの20年間は特許法によって守られていた。

特許が失効すると医薬品メーカーはある条件下で同一類似品(後発品)を承認申請出来る。売れ筋の医薬品は色んなメーカーが類似品をゾロゾロと承認申請し、認可後には薬価がグンと下がって収載され先発品は売上げが減少し、薬価も下がり利益は減少する。業界ではそのような会社をゾロメーカー、商品をゾロ品と呼ぶ。政府は健康保険の費用逼迫からゾロ品を使うように推奨する。ゾロ品は臨床試験を省略し、一般的には血中濃度の同一性で承認するので開発費用が安価であるが、製品が同一と言うことでは無い。薬には有効成分以外に添加物が多く含まれそれについては評価しないし、安全性についても評価できていない。まして生薬のごときものは(PSKも生薬の類似品)安全性を数人の臨床試験で評価し副作用がそれほど無ければ承認すると言われていた。

クレスチンの場合もこのようなゾロ品として東菱薬品工業と大洋薬品工業がバイオ・チバが製造した原料を使い昭和60年12月に承認申請し、昭和62年8月に抗悪性腫瘍剤として承認された。承認された後PSK基本特許が失効するまでは製造できないが、三社はPSKの製造方法は既に既知であるとして薬価収載を申請し収載後発売を計画した。

呉羽はゾロ対策をするため承認については厚生省に問い合わせをすることとし、特許については医薬関係を得意とする弁護士と契約し対策を講じることになった。

厚生省には昭和62年9月に審査2課のI課長補佐を訪れ三共のT、本社医薬品部のAと私の3人で質問したが、生物学的同等性については答えられない、臨床試験の有無も答えられないとしたうえで、「データは先発品と同等のデータが揃っている。その他のデータもチェック済みである」「菌株についても名称以外は菌学的に同一であるし、違っていなければ問題ない」などで承認されたとのことであった。

その上でゾロ品は2社以外にも多数出ているが、PSKが再評価指定されたのでしばらくは承認されないだろうし、ゾロメーカーも再評価指定申請するのではないかとのことだった。

その頃はPSKの薬効が丸山ワクチンとの絡みで問題になっており、また健康保険の問題(薬価が高く使用量が多いと保険からの支払いが多くなり健康保険が圧迫されていた)から厚生省は大蔵省からゾロ品を早く承認し薬価を下げるようにと圧力がかかっていたらしい。

呉羽としては承認に関しては手の打ちようがない事が分かったので、薬価収載を遅らせてクレスチンの独占販売期間をなるべき伸ばそうと医薬品訴訟のベテランと言われたS弁護士にx万円で相談にのってもらうことにし訴訟も仕掛けた。読売新聞はそのことを入手し公表した。

           

             読売新聞 昭和63年9月10日

そこには「ゾロ品が発売されると年間500億円と抗癌剤としては世界一の販売額を誇るクレスチンの薬価(960円70銭)を直撃、市場価格の大幅ダウンとともに、実勢価格と連動する薬価の引き下げも招きかねないと判断、呉羽化学工業では訴訟に踏み切ったものとみられる」と記した。

S弁護士はPSKの化学構造や物性を徹底的に調べゾロ品との差別化を明確にしようとと考えたらしく細かい指示をしてきた。これに対応している間に刻々と刻々と経過していった。この訴訟の最大のポイントは薬価収載を延長させて次の薬価収載まで独占的販売を維持することだったが、このような訴訟の方法では短時間で勝訴することは難しそうであった。その上相手企業の弁護士とは良く対決するようでお互いなあなあの関係のようにも見えた。当社としても訴訟したことで敗訴しても努力したことが大事という感覚であった(某部長談)と思われた。裁判は長引き昭和63年10月3日の特許切れの日があっという間に来た。呉羽はすかさず本訴を取り下げゾロは薬価収載(昭和63年7月15日付け)と同時に発売になった。

下記はその様子の新聞記事である。           


化学工業日報昭和63年11月28日


             読売新聞昭和63年4月及び9月


朝日新聞は翌年にはゾロ品は好調に推移していると報じており品不足とも言われている。ゾロ品の販売でクレスチンは徐々に販路を失っていった。更にその直後に再評価が告示されもっと急激に売り上げは減少していった。再評価については別項で述べたので参照されたし。

このあたりの情報はPHARM TECH JAPAN vol4No9(1988)p88に詳しい 




三共が入手したカルボクリン末のインタビューフォーム





一般的な話としてゾロ品については以前からその品質については疑問があったが、クレスチンのゾロ品について調べたところ、規格試験法は同じと思われたのに、入手した製品を分析すると規格値と遙かに異なる値が出たので、厚生省にこのような医薬品は問題ではないかと訴えたが、「貴重な御意見ありがとうございました。該当メーカーに伝えて是正させます」とのことで一件落着してしまった。しばらく経過を見守ったが徐々に規格値に入るようになった。ただ、生物学的試験については当社でも苦労した経験上ゾロ会社も苦労したのではないかと推察した。ゾロ品の売上げについては詳細は不明としておこう。

現在も(令和時代初)ゾロメーカーの違反行為が目に余り厚生労働省から指導が入り、その結果後発薬が不足している状況をも作りだしている。昭和時代と変わりない医薬品業界が続いているらしい。結局行政は使用者(患者)の事は考えず、経済的に安く作ってくれさえすれば良いという考えなのであろう。




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